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大阪地方裁判所 平成5年(行ウ)8号 判決

原告 桑田昭二 外四八名

被告 大阪市長

主文

一  本件訴えをいずれも却下する。

二  訴訟費用は原告らの負担とする。

事実及び理由

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告が、平成四年一二月一四日付で訴外宗教法人妙栄寺に対してした、大阪市指令淀保第一六号納骨堂経営許可処分を取り消す。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

二  被告

(本案前の答弁)

主文同旨

(本案の答弁)

1 原告らの請求を棄却する。

2 訴訟費用は原告らの負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  本件許可処分の存在

被告は、平成四年一二月一四日付で、訴外宗教法人妙栄寺(以下「訴外寺院」という。)に対し、別紙物件目録記載の建物(以下「本件建物」という。)に関して、大阪市指令淀保第一六号をもって納骨堂経営許可処分(以下「本件許可処分」という。)をした。

2  本件許可処分の違法性

(一) 大阪市墓地埋葬等に関する法律施行細則(以下「大阪市施行細則」という。)八条は、「学校、病院及び人家から三〇〇メートル以内の場所には、墓地等を新設し、又は拡張してはならない。ただし、市長が附近の生活環境を著しく損なうおそれがないと認めたものについては、この限りでない。」と規定している。

ところが、本件建物から半径三〇〇メートル以内には人家、病院、学校が存在するので、被告は、同細則八条但書所定の「附近の生活環境を著しく損なうおそれがない」場合に該当すると認めて本件許可処分を行ったものと考えられるが、右処分には次の違法がある。

(二) 墓地、埋葬等に関する法律(以下「墓埋法」という。)一〇条に基づく墓地等の経営の許可の事務は、昭和五八年に機関委任事務から団体委任事務に変更されたが、その趣旨は、墓地等の経営が高度の公益性を有するとともに国民の風俗習慣、宗教活動、宗教的感情その他地理的条件等を考慮して各地方ごとに具体的に判断できるようにするためである。したがって、大阪市施行細則の運用にあたっても、右の趣旨が十分に反映されなければならないのであって、同細則八条但書の該当性の判断にあたっては、付近住民の生活の安全、健康、精神衛生、宗教的感情、地価などの経済的影響等の諸事情を考慮しなければならない。

(三) 本件の場合、訴外寺院は過去九年間にわたって無許可で違法な納骨堂の経営を行い、訴外寺院による杜撰な遺骨の管理によって多数の被害者がでているほか、近隣住民の精神衛生、宗教的感情が著しく害されているから、大阪市施行細則八条但書には該当しないというべきである。しかるに、被告は、訴外寺院の無許可による右経営の事実を知りながら、その経営の実態についてまったく調査、検討することなく、訴外寺院の許可申請からわずか一週間という異例の早さで本件許可処分を行った。

(四) 以上のとおり、被告の本件許可処分は、大阪市施行細則八条但書に該当しない場合であるのに、慎重な調査を行うことなくこれを許可した違法がある。

3  原告らの原告適格

(一) 原告らの請求は、被告のなした本件許可処分の取消しを求めるものであるが、かかる行政処分の取消しを求めるにおいては、原告らが、当該処分の取消しを求めるにつき「法律上の利益を有する者」であることが必要とされるが、「法律上の利益を有する者」とは、当該処分により自己の権利若しくは法律上保護された利益を侵害され又は必然的に侵害されるおそれのある者をいうのであり、当該処分を定めた行政法規が、不特定多数者の具体的利益を専ら一般的公益の中に吸収解消させるにとどめず、それが帰属する個々人の個別的利益としてもこれを保護すべきものとする趣旨を含むものと解される場合には、かかる利益も右の法律上保護された利益にあたると解すべきである。

そして、当該処分を定めた行政法規が、右趣旨を含むかどうかは、当該行政法規の趣旨、目的、当該行政法規が当該処分を通じて保護しようとしている利益の内容、性質等を考慮して判断されるべきものである。

(二) ところで、墓埋法の規定は、納骨堂の経営等が国民の宗教的感情に適合し、かつ、公衆衛生その他公共の福祉の観点から支障なく行われることを目的としており(一条)、公益の保護を目的としている。

しかし、ここでいう公益は、周辺に生活する住民等の具体的及び個別的利益の集積、総合として成り立つものである。すなわち、納骨堂の経営等がなされた場合に、具体的に宗教的感情が害せられたり公衆衛生上の影響を受けるのは、当該納骨堂の存在する地域で生活をする住民、右地域に存在する会社、学校に通勤、通学する者、右地域にある病院の入通院者など同地域と社会的に強い接触関係にある者にほかならない。これらの者の個人的利益を考えずに抽象的、一般的に公益のみを問題とすることはできず、墓埋法の規定も、これらの者の個人的利益の保護を前提として、その集積としての公益を保護しているのである。

たしかに、墓埋法は、第一条で公衆衛生その他公共の福祉という専ら公益保護の観点からのみ納骨堂経営許可の運用指針を定めるだけで、第三者の個別的利益保護の観点からする右許可の運用指針に関する規定を設けていないが、それは、同法が、歴史的には、明治一七年に制定された「墓地及埋葬取締規則」(太政官布達第二五号)や昭和二二年に制定された「埋火葬の認許等に関する件」(昭和二二年厚生省令第九号)等の法令の内容を承継しており、明治時代の法令と比較して大綱においてほぼ変更されていないことが背景にあり、明治時代においては、国民の権利意識は希薄であったために、第三者の個別的利益保護の観点からする規定を掲げなかっただけである。

人権保障規定の確立した現憲法下においては、墓埋法の規定も憲法に適合するように解釈しなければならない。墓埋法は、一般的公益のみならず、周辺住民の個別的な宗教的感情、宗教的平穏(憲法二〇条一項本文の信教の自由)、自己の生活領域内で多数の遺骨が、その風土、習俗、良識に適合するように埋葬され、管理されていることに対する精神衛生上の利益(憲法一三条後段の幸福追求権)、近隣の地価の下落等を受けない経済上の利益(憲法二九条一項の財産権)の保護をも目的としていると解すべきである。

(三) さらに、墓埋法は、納骨堂の経営の許可基準について、具体的な定めをしていないが、これをもって、直ちに、墓埋法が住民の個人的利益を保護するための基準を有しないということはできない。

すなわち、墓埋法が右のように具体的な定めをしなかったのは、具体的な定めは、各地方の風俗習慣、地理的条件、宗教的感情等の諸事情を考慮した上で、各地方ごとに定められるべきものであり、法律をもって全国一律に定めるのはかえって弊害を伴うことになるからである。都道府県知事が許可をするに当たっては、墓埋法の右趣旨を踏まえて、各地方自治体ごとに条例や規則で許可基準を制定することが要請される。したがって、墓埋法一〇条は各地方自治体が条例や規則で具体的な許可基準を制定することを黙示的に要請しているものと解される。ことに、前記一2(二)記載のとおり、墓埋法一〇条に基づく墓地等の経営の許可の事務が機関委任事務から団体委任事務に変更された趣旨からもそのように解すべきである。

したがって、墓埋法一〇条は、地域性を考慮して住民の個人的利益を保護するために、その保護の基準の制定を条例等に委ねたものというべきである。

そして、前記一2(一)記載のように、大阪市施行細則八条は、「学校、病院及び人家から三〇〇メートル以内の場所には、墓地等を新設し、又は拡張してはならない。」と定めている。そして、同細則四条は、経営の許可申請にあたって、墓地等の周囲三〇〇メートル以内の地形、建築物の状況を表した図面の提出を義務付けており、これは三〇〇メートル以内の近隣の状況を市長が具体的に検討することを前提に、検討に必要な資料を申請者に提出させる規定であり、市長は、これに基づいて、同細則八条但書の「附近の生活環境を著しく損なうおそれがない」か否かを判断するのである。このように、大阪市の場合は、三〇〇メートルという明確な基準を立てて、付近住民の個人的利益をも具体的に保護することを明確にしているのである。右規定をもって、大阪市長の裁量権行使の基準を具体化した手続規定に過ぎないと解することは許されない。

(四) 原告らは、許可に係る納骨堂から半径三〇〇メートル以内に居住している近隣住民であるから、墓埋法によって、その個人的利益を保護された者であり、原告らは本件許可処分の取消しを求める原告適格を有するものといわなければならない。

二  被告の本案前の主張

原告らには、次の理由から、本件訴訟の原告適格はない。

1  行政処分の取消しの訴えは、当該処分の取消しを求めるにつき法律上の利益を有する者に限り提起することができる。したがって、行政処分の取消訴訟を提起できる者は、当該行政処分の法的効果として、自己の権利又は法律上保護された利益を侵害され、もしくは必然的に侵害されるおそれのある者に限られる。

2  ところで、墓埋法一〇条一項に基づく納骨堂経営許可処分は、当該許可を受けた者に対し、許可に係る納骨堂施設について、適法に納骨堂として管理・運営する地位を取得させる処分に過ぎず、当該許可に係る施設の周辺住民らの権利義務について影響を及ぼす法的効果を有するものではない。

なぜなら、墓埋法は、その第一条において、墓地、納骨堂又は火葬場の管理及び埋葬等が、国民の宗教的感情に適合し、かつ公衆衛生その他公共の福祉の見地から、支障なく行われることを目的とすると定め、同法の運用指針を明らかにし、第一〇条において、これらの施設を設置経営しようとする場合は、行政庁の許可を要すると規定しているが、その許可基準については一切定めていない。

そのことは、墓埋法の目的が、墓地等の経営が右公共の福祉上適正に支障なく行われることを確保しようとする一般的公益保護の点にあり、周辺住民の個人的利益を個別的、具体的に保護することは直接の目的とされていないことを明らかに示すものである。

すなわち、墓埋法は、墓地等施設の設置経営が一般に国民の宗教的感情に基づいて社会習慣として行われており、これを最大限尊重すべきではあるが、その取扱いいかんによっては、公衆衛生その他公共の福祉に反することとなる場合があることから、これらの設置経営等については、公衆衛生その他公共の福祉という公益目的実現のため一般的に禁止した上で、管理等が適正に行われる場合は、公衆衛生その他公共の福祉という公益に合致するものとして、行政処分をもって許可することとしたものである。

もちろん、公益は突き詰めて行けば、原告らが主張するような一定範囲の個人や周辺住民等の個別的、具体的利益が集積、総合されたものからなっているが、法律が公益を保護する場合は、そのような周辺住民等不特定多数人の個別的、具体的利益は、直接的にその法の保護する権利、利益ではなく、一般的公益の保護を通じて付随的、反射的に保護される利益で、事実上の利益に過ぎないものである。

したがって、公益保護を直接の目的とする墓埋法に基づく本件許可処分について、原告らはなんら法律上の利益を有するものではない。

3  また、原告らは、大阪市施行細則八条本文が、学校、病院及び人家から三〇〇メートル以内の場所には墓地等を新設し、又は拡張してはならないと規定していることから、大阪市の場合は、三〇〇メートル以内の住民の個人的利益を具体的に保護していると主張する。

しかし、同細則は、前記の公益を専ら保護法益とする墓埋法を大阪市長において運用するについての裁量権行使の基準を具体化した手続規定を定めているに過ぎず、墓埋法と異なる観点から独自に墓地等の経営許可に関する条件の基準を定めたものではないこと、原告らが引用する同細則八条本文による距離制限も、その但書で市長が付近の生活環境を著しく損なうおそれがないと認めたものについてはこの限りでないとし、本文での距離制限を絶対的なものとすることなく周辺の生活環境という公益的裁量により許可できるものと定めていること、そして、他に周辺住民の個別的、具体的利益を配慮するための、周辺住民の許可申請に対する意見書の提出、又は聴聞手続等の規定、あるいは申請を不服とする住民の異議申立て等の周辺住民の個別的利益を直接に保護していると窺える規定は何ら存在しないこと等からすれば、同細則八条の規定は、墓埋法一〇条の規定に基づき大阪市長が墓地等の経営の許否を決定するにあたって、その裁量権行使が、公益を害することのないよう、判断の基準を具体的に定めたにとどまり、周辺住民の個人的利益を直接保護する趣旨を含むものではないと解するべきである。

4  以上のとおり、原告らは、本件許可処分の取消しを求める法律上保護された利益を有する者ということはできず、本件訴えは原告適格を欠き不適法である。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1の事実は認める。但し、本件許可処分に係るのは、本件建物全体ではなく、本件建物の地下にある納骨堂五・六八平方メートルである。

2  同2(一)の主張は認めるが、本件許可処分が違法であることは争う。

3  同2(二)の主張のうち、細則八条の解釈に関する部分は争い、その余は認める。

4  同2(三)、(四)は争う。

三  被告の主張

被告は、訴外寺院からなされた納骨堂経営許可申請を、当該申請書、申請施設の立入調査及び付近の環境調査結果について、墓埋法、大阪市施行細則等関係法規に基づき審査したが、付近の生活環境を損なうと認められる事由は認められず、その他大阪市の納骨堂経営許可要件を満たすものであったので、本件許可処分を行ったものでなんら違法はない。

第三当裁判所の判断

一  本件許可処分の存在については当事者間に争いがない。

二  被告の本案前の申立て(原告適格の有無)について

1  本件は、本件許可処分に係る納骨堂の付近住民である原告らが、本件許可処分の取消しを求める訴訟であるが、処分の取消しの訴えは「当該処分の取消しを求めるにつき法律上の利益を有する者」(行訴法九条)に限りこれを提起することができ、右法律上の利益を有する者とは、当該処分により自己の権利若しくは法律上保護された利益を侵害され又は必然的に侵害されるおそれのある者をいうと解されるところ、当該処分の根拠をなす行政法規が一般的な公益を保護するものと解される場合には、右公益に包摂される不特定多数者の利益に対する当該処分による侵害は、単なる法の反射的利益の侵害にとどまるから、かかる利益の侵害を受けたに過ぎない者は当該処分の取消しを求める原告適格を有しない。しかし、当該処分を定めた行政法規が、不特定多数者の具体的利益を専ら一般的公益の中に吸収解消させるにとどめず、それが帰属する個々人の個別的利益としてもこれを保護すべきものとする趣旨を含むと解される場合には、かかる利益も右にいう法律上保護された利益に当たり、当該処分によりこれを侵害され又は必然的に侵害されるおそれのある者は当該処分の取消訴訟における原告適格を有する者というべきである。そして、当該行政法規が、不特定多数者の具体的利益をそれが帰属する個々人の個別的利益としても保護すべきものとする趣旨を含むか否かは、当該行政法規の趣旨・目的、当該行政法規が当該処分を通して保護しようとしている利益の内容・性質等を考慮して判断すべきである(最高裁平成元年(行ツ)第一三〇号同四年九月二二日第三小法廷判決・民集四六巻六号五七一頁参照)。

2  以下、右のような見地に立って本件について検討するに、墓埋法は、墓地、納骨堂又は火葬場の管理及び埋葬等が、国民の宗教的感情に適合し、かつ公衆衛生その他公共の福祉の見地から、支障なく行われることを目的とすると明定しており(同法一条)、ここに「国民の宗教的感情」とは、祖先崇拝の気持ちや、祖先の安息を願うという国民一般の感情を指すと解するのが相当であり、また、「公衆衛生その他公共の利益」も公益を意味するのであるから、法の文言から法が個人の個別的利益の保護を目的としていると解することはできない。そして、墓地、納骨堂又は火葬場を経営しようとする者は、都道府県知事(本件の場合は市長、同法一九条の三)の許可を受けなければならない旨定められている(同法一〇条)ものの、同法にはその許可の具体的な基準がなんら定められていないし、また、同法及び同法施行規則には、右墓地等の経営の許否を決するにあたり、予定場所の付近住民において、意見書を提出し、公開の聴聞手続等の形で意見を申述することや、決定に対して異議を申し立てることができるなど、周辺住民の個別的利益を直接保護していることを窺わせる規定は一切存在しない。このような墓埋法の趣旨・目的、法規の内容に照らせば、同法一〇条の許可制の趣旨は、墓地等の経営を無条件に許容するときは、墓地の管理及び埋葬等が、同法の目的とする国民の宗教的感情の尊重や公衆衛生その他公共の福祉という公益に反することとなるおそれがあるので、これを都道府県知事の公益実現の見地からする裁量行為として許可制とし、公益を阻害するおそれのない場合に限り、これを許可するものとしたものであると解される。そうすると、同条の趣旨は、専ら公益の保護にあるのであって、周辺住民の個別的利益を保護するところにあるのではなく、同条によって受ける周辺住民の利益は、反射的利益にとどまるものと解される。

3  これに対して、原告らは、大阪市施行細則八条が「学校、病院及び人家から三〇〇メートル以内の場所には、墓地等を新設し、又は拡張してはならない。ただし、市長が附近の生活環境を著しく損なうおそれがないと認めたものについては、この限りでない。」と規定していることを根拠に、法が、具体的な許可基準を定めなかったのは、許可基準の制定を都道府県知事に黙示的に委任し、知事が制定した許可基準によって周辺住民の個別的利益を保護することを要請したものである旨主張し、本件の場合は、同細則八条の規定によって、少なくとも対象物件から三〇〇メートル以内に居住する周辺住民の個別的利益は保護されていると主張する。

しかしながら、前述の墓埋法の趣旨・目的から勘案すると、法一〇条が具体的な許可基準を定めなかったのは、墓地等の経営が高度の公益性を有するとともに、国民の風俗習慣、宗教活動、各地方の地理的条件等の差異に鑑み国による一律的な裁量基準になじみ難く、各地方ごとの判断に委ねることがより合理的であるという理由から、都道府県知事の妥当な裁量判断を期待し、これに判断を委ねたものと解されるのであり、都道府県知事に、前述の法の趣旨を越え、周辺住民の個別的利益の保護という目的から、許可権限の行使を認めたものと解することはできない。大阪市施行細則は、地方自治法一五条一項に基づき大阪市長が制定した規則であって、法令に反しない限り制定し得るものであるから、同細則八条の規定は、市長が墓地等の経営の許否の事務処理をなすにあたって行う裁量判断が公共の利益を害することのないよう、その判断の一応の基準を具体化したものに過ぎないと解釈せざるを得ず、右規定をもって周辺住民の個別的利益を保護する趣旨の許可基準を定めたものと解することはできない。

原告らは、昭和五八年に、法一〇条の墓地等の経営の許可に関する事務が、従前の機関委任事務から団体委任事務とされたこと(地方自治法二条八項、別表第一の九の二)から、都道府県知事による周辺住民の個別的利益の保護が認められる旨主張するが、団体委任事務とされことによって、事務処理にあたり国の指揮監督を受けなくなったというに過ぎず、墓埋法の趣旨を前記のように解する限り、右改正によって、前記の解釈が左右されるものではないから、原告らの主張は理由がない。

4  以上によれば、本件許可処分は、原告らの権利利益に対して直接制限を加えるものではないことはもちろん、墓埋法には個々人の個別的利益の保護を目的として行政権の行使に制約を課す規定はなく、同法及び大阪市施行細則の解釈からこのような制約を導くこともできないというべきであるから、周辺住民を含む不特定多数者の個別的、具体的利益は、法が保護する公益の中に吸収解消され、その保護は専ら右公益の実現を通じて図られているものと解される。したがって、原告らが本件許可処分により侵害されたと主張する利益は、公益の保護の結果として生ずる反射的利益にとどまるから、かかる利益の侵害を受けたに過ぎない者は本件許可処分の取消しを求める原告適格を有しない。

三  よって、本件訴えは、いずれも不適法であるからこれを却下することとし、訴訟費用の負担につき、行訴法七条、民訴法八九条、九三条本文を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 松尾政行 小野憲一 井田宏)

別紙物件目録〈省略〉

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